my sweet memory

川面を泳いでいた鴨の足ひれに注目してみたが、何も分からなかった。
ベンチに腰掛けると薫風が柳の葉を揺らした。デジタルカメラを構えてシャッターに手をかけたときには、風が収まっている。
タバコに火を点けると空に向けて煙を吐いた。一瞬だけ風を感じ、また風が吹いてきて女はスカートの端を押さえる。
足元では蟻の一群が油蝉をばらしていた。小さな蟻も大きな蟻もいて、細かく引きちぎった獲物を、効率よく巣へと運んでいる。蝉の頭が胴体と分離しそうになっている瞬間を女はマクロで三回撮った。

困ったことがあると女は近所にある公園を訪ねた。
祖母の痴呆がひどくなったとき、ボーイフレンドに殴られたとき、課長で直属の上司である浮気相手の男の子を身ごもったときなどに。

今度のは、いつもと違うぞ。女は地面を木の枝でほじりながら(蟻の作業を邪魔しながら)、一連の出来事を反芻している。
テキーラ、杏、マイルドセブンライト、ジョジョの奇妙な冒険、ホラー映画・・・。

タバコを乱暴に踏み消すと女は立ち上がって伸びを一回した。
クリーム・チーズ、臭い足、雑魚寝、朝の一服、携帯電話のメモリー消失・・・・。

コーヒーを飲もう!と女は叫んだ。