☆009

そして俺は、なんだかよく訳のわからない会社で働くこととなった。
商品もないし、売り上げもない。
社員10人ほどの会社だったが、実体のあるようでない、仕事をしていた。
待遇は社会保険なし、厚生年金なし、月25万。

実際そこは会社より、工房と呼ぶほうがふさわしい感じだ。
風力発電バイオトイレといった類のエコ製品の部品やら破片やら残骸やら作りかけやらが、そこらに散らばっていて、正しい情報による間違った方向での試行錯誤がなされたことを証明していた。


人は往々にして間違えるものだが、命の続く限り、軌道修正も後悔に打ちひしがれる自由もある。
この会社は運良く、というか、役人からもらった情報を実体経済と結びつけて利権を貪りてぇ、ってな老人たちが出資しているからか、僅かなことでは潰れない。しかし実際のところ、経営は風前のともし火で、いつ潰れるかわからない不安定さを5年間滲ませてきたらしい(総務部談)。
5年だ。

そういう意味では、ウチの社長は立派であった。雇用を創出することが企業の最大の社会貢献で、雇用を維持し続けるためには優秀な経営者が必要条件だからだ。
何しろ、社員はほとんど60過ぎのロートルで、やっていることは最前線、というなんとも、ありえない感が充満している会社なのである。
皆、コネと昔とった杵柄でなんとか業務している振りをしている。
そんな会社を残した社長は、やはり立派である、と俺は思った。