3月3日 22時頃。
暖簾をくぐって引き戸を開けると左右にまっすぐ屋台が並んでいる。
一昔まえに流行った屋台村だ。
高校の卒業式を終えたオレは、同じ高校を卒業した女と飲みに出かけた。
女とオレは付き合い始めてちょうど半年位だった。
繁華街がある駅の南口で待っていると、黒のロングブーツにモノトーンの千鳥柄のミニスカート、その上に厚手のニットを着てベロアのショートジャケットを羽織った女が改札から出てきた。
女は秋から伸ばし始めた髪を肩の上で揺らしながら「待った?」と聞いた。
それほどでも、とオレはこたえて、それから時計を見た。21:45分だった。
申し合わせたかのように、オレ達は屋台村に向かった。
安く飲める上に、未成年のオレ達をいつも快く迎えてくれる焼き鳥屋があったからだ。
しかしオレ達は、何杯も飲まないうちに口論をしてしまう。
「どこへでも行っちまえよ、クズ女」
と言い残してオレは席を立った。そしてマスターに一万円払うと、店を出た。
外の空気は鼻先を痛くするほど寒くて、オレは酒にほてった体を縮めながら、よろよろとアスファルトを進んだ。
自転車乗り場まで着くと、ポケットベルが鳴った。《 ごめん。私が悪かった。帰ってきて ≫
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オレは自転車に乗ると家路を急いだ。途中、公衆電話の前で何度か停まったが、返事はせずにいた。