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二通の手紙に目を通してから、オレはまぶたを揉んだ。
目玉が親指の動きにあわせてブニブニと形を変えるのがわかる。
やれやれだぜ。
オラオラ千発を食らわせてやりたいと思ったが、目の前にいるペンギンはそれほど悪そうにみえない。どちらかというと、従順で素直な部類にはいるペンギンだった。
「せっかく泳いできたのに、そりゃないぜ」とペンギンはブルブル尻尾を震わせて、体の水気をとった、オーストラリアのサーフスポットの一角、オレはパラソルの下にデッキチェアをおいて、遠くでサーフィンしている友人を眺めながら、ジンライムを舐めていたとこで。
「おい、おい」
誰かに呼ばれた気がして後ろを振り向くと、肩で息をするペンギンが砂浜に立っていた。
夕べ焼いたスペース・ケーキのせいかと思っていたらビニールに幾重にもわたってセロテープを巻きつけた包みを差し出しているペンギンがいるので、仕方なくオレはビクトリノックスのナイフで中身を傷つけないように包みを開けると出てきたのが、エイミーの手紙だった。

現状を把握できたとたんに、頭が鈍く痛み、指をこめかみに当ててしばらくマッサージしていると、ペンギンは「というわけなんだ、わかる?」という風な顔をして、アピールしているらしいのだけど、オレにはペンギンの表情からその精神状態を正確に把握する器官が存在していないので、オレがあくまでそう感じただけで、しばらくするとペンギンは餌をよこせと、今度ははっきりとした言葉で言った。
「悪いんだけど、ここにはジンが少しと氷しかない」
「せっかく泳いできたのに、そりゃないぜ」
オレは久々に海に入って素もぐりで魚を何匹か獲ってやり、沢蟹を砂浜に作った穴に追い込み、ペンギンにあげた。
「オーストラリアも悪くないね」ペンギンは言った。
反論するのも面倒だったのでオレはうなずいた。
「でも、兄さん、そろそろ日本に戻る時間だ。生活に戻る時間だ。それに伝えに来たんだよ。わざわざ太平洋を泳いでさ」
なぜだい?
「わからないかな。エイミーは袖に下がったわけじゃない。舞台を降りたんだよ。ボクの名前はエレコム。よろしくね」
君が彼女の代わりなのかい?
「む?あまり面白くない」
そいつは、失敬。つまり君はペンギンだ。エレコムという名の。
「なに、あったりめぇのこと言ってんだよ、おっさん」
これから君と生活して、日本に帰らなくてはならない。そして生活にも、OK?
「OK」