★4

と、携帯が鳴って取る、オレ、ぷるうるるる。
「ナカちゃん?」中村泰樹、それがオレの名で、通称ナカちゃんで、携帯鳴らしたのは、前職で一緒だった大将の片腕でオレに200万くれた有紀。

いっやあ、と有紀は筆で書いたみたいな細い目を細ませながら諾ったりして。

大将の悪口、200万の用途などをひとしきり話すと、ここはまた土間土間、ゆみゆみが豚しそ巻きを相変わらず薦めているから2皿注文して、有紀はついに本題に入る。

「実はさ、ナカちゃん、もうね、儲かっちゃって儲かっちゃって、バースト寸前つうぅの?ちゅうの?ってくにゃくにゃして烏賊音頭とか踊りたくなっちゃうくらい、儲かる仕事あんのよ?」と金の無心。オレも偉くなったな、ふ。

ポン、と有紀に100万を渡すと「これはお前の分」で、これがと二の句を接ぎかけて止めた。大将には悪いけれど、俺も霞を食って生きているわけじゃないから。ここは東京デザート一番地。地獄の九番地。

んじゃ、なんて言って有紀は帰っていった、タクシーで。

多分、オレのやった金はやつの言う「烏賊音頭」を踊りたくなるようなビジネスには使われず、今ちょうど目の前でやつがやったみたいに、超即物的な方法で、例えばキャバラクなんかで食べもしないフルーツを頼むみたいに使われちゃうんだろうけど、まあ、いいや、とオレは口笛で「ペニーレイン」のさびの部分だけ除いて、ぴーひゃらやりまくり、隣室の小林さんにすんげー怒られた。