第十二章 ごみ掃除

「そうそう羊って言えば、電気羊でしょ?それから羊をめぐる冒険」ポンは饒舌になっている。何か、薬をやっているのだ。

ポンはヤク中である。国家公認のヤク中。それがポンだ。彼は自分の持っている精神学的知識をフル活用し、精神病院やらインターネットでやらで「国家公認のヤク」を手に入れている。そして月に一度、皆に「生理」と噂されている強烈な鬱状態を迎える。典型的な国家公認のヤク中である。

ヤングな頃、多々あったらしい彼の過去を羊は様々な住人から聞かされていた。曰く、殉教者だの、トラベラーだの、カウンセラーだの、嘘つきだの、オカマだの、偽オカマだの・・・。

そして羊は思う。「この人には心を開くまい」と。

「電気羊?なんのことですか?」羊はさり気ない風を装って聞く。
「あんた羊なのに、電気羊も知らないの?馬鹿ねぇ。最近の学生は馬鹿って聞くけど、あんたがその典型ね」ポンは、さも可笑しいといった風に嬉しそうに笑っている。
「今日はどういうご用件ですか?」
「ゴミ掃除手伝って」

毎週日曜の昼間、こうして羊はゴミ掃除に借り出される。
一階の洗濯機置き場の脇に置かれている、3つの大きなポリバケツに入ったごみをポンの軽トラに積んで、ごみ焼却場まで運ばされるのだ。ポリバケツは一週間もすればいつも満タンで、日曜の昼下がりには決まってポンの来襲に遭うのだ。そして今日は日曜日だった。

ごみ掃除が終れば、今度は風呂場を掃除させられ、運が悪いとポンの部屋の掃除までさせられる。しかし今日はどういう風の吹き回しか、ポンは風呂掃除はしなくてよい、と言ってきた。

「本当にいいんですか?」羊はごみをトラックに積みながらそう訊いた。
「ああ、今日は別の韓国人がやってるから大丈夫。あんたにも奴隷が出来たってことよ」ポンは薄気味悪い微笑みを浮かべると、車に乗れと指示をしてきた。

さっさとごみを片付けてしまうと、羊は開放された。部屋に戻って本を開く。続きが気になる。