第十章 《 (元)緑屋商事 社員寮 》 ~ 25 strange stories 再び

「おお!」ハルキンの嬌声が鼓膜を劈く。
「これ25の奇妙な話じゃん、どーしたこれ?」

羊は《 (元)緑屋商事 社員寮」 》の自室で、下に住むハキルンの来襲を受けている真っ最中。

「高校に入る時、地元の図書館で借りたっきり、ウチにあるんスよ」羊は敬語の使い方を少しずつだが学びつつある。
「おお、さすが、学生。もう読んだ?」本を逆さに持ったままハルキンはうきうきしながら訊いた。
「いえ、まだです」気まずい雰囲気が一瞬流れる。ハルキンは、見せびらかし用に買ってある本が大嫌いなのだ。「でも、この本なんか飛び飛びで、途中のページとかなかったり、消えていたりで、結局読んでないっス」と羊は、言い訳してみた。
「ばか、お前。これはこういう本なんだって!」

《 (元)緑屋商事 社員寮 》構成図

★ ポン    ・・・ マネージャー
★ ハルキン  ・・・ 羊の階下に住む熱血漢
★ 傭兵    ・・・ 映画マニア
★ ダイチ   ・・・ 主夫
★ シン    ・・・ クラブCaveのオーナー
★ マコト   ・・・ あの・・・・
★ リアルD   ・・・ テロリスト
★ ゴッドウィン・・・ 出所したての犯罪者(冤罪です)
★ ジーク   ・・・ 犬

ハルキンの嵐が過ぎ去ると、すべての音は死んだ。今日は、誰も家にいないのだ。羊は久しぶりに本を取り出して、ベッドに横たわった。音が欲しくて、CDを探すが碌なものが見つからず、仕方なく傭兵に借りた「Clerks」をデッキにセットする。アメリカで買ったものらしく字幕がなかったので、意味はさっぱり解らなかった。せいぜい羊が解ったのはジェイもサイレントボブも昔は若かったという事実だけだ。それから汚い言葉が飛び交っていることだけは確かだった。

気を取り直して羊はゆっくりとページをめくった。しおりが挟んである。それはいつか女の子と行ったドムドムバーガーのサービス券だった。裏返すと、女の子が書いたらしいメッセージがあった。

「ずいぶんと遠くまで来てしまったのね。待ってたのよ」