第八章 羊の卒業式

羊みた様な生徒にとって最もややこしい行事の一つに、入卒業式が数えられる。
いわずもがな、羊は決して社交的な分類に選ばれないタイプの羊だ。群れることを嫌うし、自分が偶蹄目であることを恥じている。
それが何故なのかについて、羊が語って聞かせる機会は永遠に訪れそうにないが、あえて心理的存在の正しい在り方の一意見として答えさせていただく。
羊は、非常に面倒くさいタイプの友達がいる。愛や恋について真剣に話せる友達を持っているのだ。羊はいつだって彼らについて行けない、気弱な部分を持っていた。

羊は沈黙する。いつだって、学園祭だって、卒業式でさえも。 


そして羊は、とりあえず義務教育を終了した。

羊は2月の始めに、志望高校への推薦入学を取り付けた。そして図書館の女の子ともそれきりだった。

すべて慌しく、しかし規則的に過ぎ、その様は羊に季節の変わり目を思わせた。

「すべてのものが一律でないことが、せめてもの救いだ」
「誰の言葉?」

羊は女の子に向かって微笑んだ。彼女は桜舞い散る校庭で花束を手に、瞳を潤ませている。

「すべては終ったんだ」やっとの思いでそういうと、卒業証書をじっくりと読み返す。女の子は側で、羊の視線の先を追っている。しかしそれは決して彼女に向けられない。すべて決まっていることで、すべては終ったのだ、女の子もそんな風にすべてを理解した振りをしようとしたとき、羊は言った。

「みんなそれぞれ戦場がある」

羊は町を去った。