第八話

「営業とのさ、コンセンサス取っといてよ」笹木課長は言った。「鈴木先生、どうよ?」
鈴木ヤスシは縷々とそれに答えた。
「逆にいうとそれって営業マターですよね。たしか今月イッピまでに数字もんどくってメール投げてましたよね、マストだって」ヤスシは思いつきで話していたが、自分が何を話してよくて、何を話してはいけないかをよく心得ていた。
「そうだっけ。あれから連絡ないか・・・。とするとモチベーション下がっちゃったかな」
「二の矢はもう考えてありますよ。うちの部のにんげんを会議にはさませて、、、」
「結果フィードバックして」課長はにやりと笑うと席に戻った。ヤスシも自分の仕事に帰った。

 「・・・まあそんなようなイメージです」結局自分が会議に参加することになってしまい、ヤスシは余裕でやってる感を出すのに必死だった。
 「じゃあ後はプライオリティーの問題ということで・・・」その声を汐に会議は終わった。

なくはないでしょう?部下の大木が語気を強めて訊いて来る。流れを見つつそのあたりをASAPで知らせる――― サラリーマン必須の処理能力に大木は大きく欠けている。「折り返します」外出中のヤスシは客先直行直帰だったので、そう答えて電話を切った。
 「私的にはオッケーなんですけどね」揉み手をしながらヤスシはあいまいに目をそらす。相手先のフロントパーソンは馬鹿ではなかった。「じゃあそこらへんの落とし込みをしておいてください」
必ず期限を聞くこと―――「ケツが近いから今から資料作り頼むわ」ヤスシは大木の冗長な意見を口を挟まず聞いてあげた後、すぐにそういった。「商業ペースで、営業とフィックスしておいて、値段のとこな」
「要は極論すると・・・」大木のおしゃべりを二度聞くと頭が悪くなってしまう。ヤスシはそう信じている。「大木さ、要点だけ挙げて」一度きちんと釘をさそうと考えているが。ヤスシはそう思いながら大木には寛容に接している。技術力が一番あるのが大木だからだ。
 
 バタバタとした木曜日が終わり、金曜はさくっと仕事をして19時にはあがった。帰り道、ヤスシは煙草を買いにコンビニに入った。レジの前まで来ると、いらっしゃいませ。
 「あのですね~」銘柄の名前が出てこない。ソフトパックとボックスの番号がてれこになっていることに気が付いていない。喫煙者は確実に減っていた。

 よいか悪いかは別にした意見などに意味はない。そうヤスシは考えてた。あれをあれしておかないとな、とまた、そんな風にも考えていた。それとなく部長に聞いておくか、と別の案件を思ったときには、新しいアクションが浮かんだ。PCBだったけど大丈夫だったかな、駅のホームまで来ると、急にポスティットが張ってあったことに気が付いた。もしアレなら、、、言い訳を既に考えている。