第十三話

なべに湯を沸かして、そこへ蕎麦を放り投げる。菜ばしで軽く2,4度かき混ぜて蓋をした。

冬は蕎麦が美味しい。冷たい水のおかげだ。
薬味として白髪ねぎの刻み、すりゴマ、卸がねで擂った山葵。
蕎麦つゆには鰯と鰹の白だしをミックスし最後にたまり醤油を煮たのを二、三滴。

テレビをつけると水戸黄門がやっていて、やる気の塊みたいな助さんが「ご老公!」とソプラノ声で。

まさかとは思うが、この平和な時間を乱したのは携帯電話から流れる「supersonic」だった。
「もしもし?」
「何してた?」
「蕎麦食いながら水戸黄門見てた」
「ご機嫌じゃん?」
「まあね」

私はその電話相手と少し雑談をして切った後、手繰り寄せようとした蕎麦がくっついていて、ちょっとした塊になっていて箸先が殊の外重たくって、ちょっとだけ指先が震えた。雑談は長すぎたのだった。

私は流しに行って蕎麦ざるを三角コーナーに放り込むと、タバコに火をつけた。
流し窓を開けると顔に風がそよいできて、涙が少し流れてきた。