そんなことしか

29歳までに小説家としてデビューしたいと考えていた。
なんの根拠があって29歳なんだ、と問われたら返す言葉もないのだけど
なんとなくそのくらいまでに自活する道を作らなくてはならないという
強い脅迫観念があった。

周囲の反応はもちろん冷たい。
30近くにもなって・・・・、てな具合の話は耳にたこができるほど聞いたし、実際自分でもそんな風に感じている彼ら(彼女ら)の気持ちがうっすらと分かるようになってきた。

鏡を覗いてみると、そこにはまぎれもない28歳のボクがいる。
肌は乾燥し粉を吹き、唇の色は黒っぽく、髪だって薄くなったし、耳垢や体臭なんかも気になるようになってきた。徹夜明けの自分の顔を見るのが本当に嫌に感じるようなったのも最近の話だ。
誰に断るまでもなく、もうボクは希望に溢れたティーンではなく、れっきとした28歳の男なわけである。

彼らはこんなボクを揶揄して、そう呟く。まったく30近くにもなって・・・。

その28歳の男が書いた小説なんか誰が読みたいと思うだろう?
以前までの自分には経済力が伴っていたが、それも今は失った。
すべてを失ったとまでは言うつもりはないが、自分を隠したり欺いたりする必要すら失ってしまったのだ。そしてそれは、経験するまでもなく、惨めで情けないことだと感じる。実際その環境にいるボクがいうのだから、信じていただきたい。

決してここへ来てはならない。
警告します。
決して。

そんなことしか、今のボクには書けない。