何もない道を歩く

通勤途中に桜がよく目に付くようになった。
いわずもがな、春だ。

始まりの季節。

春は出会いの季節であり、それは長い目で見れば、別れの始まり。とにかく、春だ。

前後の脈絡の欠片もないが、ボクは何もない道を歩こうとしている。
何もない道をただ歩くんだ。

聞こえるのは君の声。それ以外は・・・。



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昔はよかったね、と誰かが言う。
ボクは口を閉ざさざるを得ない。昔の自分は救いがたい痴れ者で、そして臆病だったからだ。

春。

ボクはいろんなことを思う。鳥のさえずり。

薄手のピンクが今年の流行色だ。
腰よりほんの少し長めのSサイズなミリタリージャケットはあげてしまった。ロイヤル・フラッシュで買った高価なものだったが、友人にとても似合っていた。

善意。

春に善意が目覚めないのであったら、世界のどこに許しや理解があるだろうか?

春。憎い奴。

春を、春が、春を。春を。春を。春を。

春。を。

は。る。

音読するのが、一つの基本だ。

パニ障で不眠症かつ鬱病なボクは、憐れ、ドップラー効果の犠牲になって
原爆を数百秒、へたすれば数千秒浴びていなくてはならない。時間と空間が複雑に入り組んだ、何もない道をただ歩きながら。君の声を聞きながら。