王子五丁目団地の怪

まずは王子五丁目団地の話から始めたい。

東京メトロ南北線王子神谷駅から徒歩1分、
住戸数2221の巨大団地である。

テニスコートと遊技場とよべないこともない小振りな広場を
ぐるりと囲んで3棟の建物が直立している。

突然だが、建設を企図した方の浅薄が恨まれる。
というのはそうして広場を建物で囲んでしまった結果、
建物がメガホンの役目を果たしており
階下のちょっとした話声が増幅されて、
まるで隣家で大騒ぎをしているかのような音量で
聞こえてくるのである。

幼年者たちがしばしば発する叫び声は凶器と化し、
バイクなんぞで広場を横断しようものなら、
喧しいことこの上ない。
夏の夜には、行き場のない若者達が集って話す声が
5.1chサラウンドで一晩中流れている(警察を呼ばない限りは・・・)。
やっと眠れたと思えば、鍵盤を叩き付けるような
イントロ音が目をこじ開ける。ラジオ体操だ。
窓をあけて階下を覗き込むと、広場の中央に
ハーレムの黒人が担いでいたようなラジカセを
置いて、それをぐるりと囲むようにジャージー姿の
老人達が規則正しく動いている様が見える。
たいした音量でないにも関わらず、高層階の私の
部屋でも、遜色なく踊れるくらいにはっきりと
聞こえるのだ。

2011年の始まり頃に越してきた私はまもなく
ここ王子五丁目団地で春夏秋冬の一巡目を終えようとしているの
だけれども誰にもここでの生活をおすすめしたことはない。

問題はそれだけはないのである。