wants

こんな朝にはお前が欲しい。

お前だって?

お前って誰だよ?

お前はどちらかと言えば指示代名詞で一般的なあんた、あんた。

不遜な呼び方だな、あんたなんて。いったい自分は何様のつもり?
何様のつもりなんて言ってるあんたは何様のつもり?

ちょっとした間違いなんだよ、すぐ訂正、低姿勢。
社会に擦り寄る私。小さくて自信のない、私。

私の話なんて聞いても面白くない。
私は一般的な私で、ホテルのカウンターで宿帳に目を通しているかもしれない私ではなくて
ホテルに来る有名無実なお客としての私であって、実際には語られることが少ない。
つまり替えが利く私で誰かの話のどこかの登場人物でも不足ない普通一般の私。

人、と置き換えても損傷ない、語られることのない私。でも決して存在しない私ではない。
そういう私抜きにはどんな物語も出発できない私だからだ。

光と影のような私で、言葉と実在の間の私が物語りをつむぐとこんな話になる。

あるところにどこにでもいる私がいました。
私はあまりにどこにでも存在できるので存在することを辞めたいと思いましたが、
常にありとあらゆる表現の場にいなくては表現の母体を崩してしまうかもしれない、表現方法の一環としての不可欠かつ無用の私はそんな我侭を許されずにいた。
そしていつものように存在しないように絶対に存在し、まったく存在しないように確実に存在した。