ある日のこと 6

俺がピッツァマルゲリータを頬張っている横でマスターは
新聞を読んでいる。夕刊フジだ。

「満員電車の中、くたびれた顔をして、夕刊フジを読みながら老いぼれてくのはごめんだ」
とかいったパンクバンドがあったけれど、実際大人になってみるとたいていの人がよほどのことが
ない限り、満員電車でくたびれた顔をしながら夕刊フジや少年ジャンプを読みながら日々をすごして
いることに気がつく。

もちろん、俺はそんな社会に絶望した。209回くらいした。

「洋子は?」繰り返したずねるもマスターはボクを無視して、ひたすら社会欄の
高校生殺人うんたらを熱心に読んでいる。

最近よく起こっている殺人事件で青少年(すごい言葉だ)が果たす役割が
変わってきている。マスターは感慨深そうに一人ごちると、店じまいだから帰れ、と
言ってきた。

ボクは1000円札をカウンターに投げ捨てると、表に出た。

酔っ払って植え込みに倒れているホスト風の男
ローファーの踵をつぶし、だらしなくそれを引きずり歩く女子高生
ギャング気取りの南米男から、非合法な仕事に従事している中東人
路面店の中華料理屋からは威勢よく北京語が飛び交う。

洋子に電話をかけながらボクはタバコに火を点ける「もしもし」
洋子?俺、今日なんで来なかったの?体調悪いとか?

無言の携帯を耳に当てて、街灯に向かって煙を吐く。
「私、直子だけど、あんたさ」プチ。